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映画評 「この道」 [映画評]

本作は、詩人・北原白秋と音楽家・山田耕筰の活躍を描く伝記ドラマ。
北原白秋を大森南朋さんが、山田耕筰をAKIRAが演じる。
予告編がちと面白そうだったのだが、世間的にはあまり話題になっていないようだ。
「シュガー・ラッシュ」「ボヘミアン」「ドラゴンボール」「ファンタビ」と大作・話題作目白押しの正月シーズンに、すっかり埋没した感じである。

しかし、こうした映画にこそ、意外な掘り出し物があるかもしれない、
などと期待をしたのだが、なかった。
ひっそり公開され、多くの人の目には触れないままに消えていく運命の作品のようだ。

実質的な主役は北原白秋の方なのだが、その描き方がどうにも浅い。
わかりやす過ぎて人間的な魅力が感じられないので、感情移入ができない。
当時の文壇で活躍していた、与謝野晶子・鉄幹夫妻をはじめ、石川啄木、鈴木三重吉などが続々出てくるのだが、そのせっかくの関わりも上っ面だけ(晶子さんとは、少し濃厚に絡むが)。
もったいない。
白秋の没後、山田耕筰が記者のインタビューに答えて生前の白秋を振り返るという形をとっているのだが、その構成もうまくいっているとはとても言えない。
山もなく、谷もなく、
薄く、味わいのないエピソードがするすると流れていく感じである。

共演は、松重豊さん、貫地谷しほりさん、津田寛治さん、升毅さん、柳沢慎吾さん、羽田美智子さんら。
前半で登場シーンは終わってしまうが、白秋の愛人役を演じられた松本若菜さんがよかった。
年齢的にはもう中堅だが、これから花が開くかもしれない。
山田耕筰にインタビューする記者役で出演していたのが若手女優の小島藤子さん。
彼女は、実写版「氷菓」において、摩耶花役で出演していた。
といっても多くの人には何のことかわからないだろうが、氷菓ファンとしては、これからも注目していきたい。

この映画の鑑賞で、個人的にあることを達成した。
それは、映画館で、一人っきりで映画を観る、という体験である。
私が観たのは、封切り二日目の夜の回。
160席の劇場で、客は私一人だった。
これまで、何百本と映画を観てきたが、貸し切り状態になるのは初めてで、軽く興奮した。
もっと遅い時間の、もっとマイナーな作品でも、数人はお客さんがいたものだから、この映画が貸し切りになるのは驚いた。
おかげで、伸び伸びと鑑賞することができたが、映画ファンとすると、どんな映画でも不入りは寂しい。
貸し切り鑑賞は、今回が最初で最後になることを祈る。
と言っても、あえてこの映画を選ばれる必要はないとは思うが。

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