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映画評 「サイレント・トーキョー」 [映画評]

予算がない中で、なんとかやりくりしながら映画を作るのは大変だと思うが、
それなりにお金をかけて、有名な役者さんを使って映画を作るというのも、やはり大変なことだろう。
用意されたお金を有効に活用した見せ場を作り、
それぞれの出演者においしいシーンをあてがい、
もちろん、映画としてもちゃんと成立させて、
などと考えていたら、さぞしんどいことだろう。
そこからすると、2020年に公開された映画の中で、
「糸」や「罪の声」といった作品は立派だった。
エンタテインメントとしてしっかり成立させながら、映画的な醍醐味もあった。
残念ながら本作は、難しさの前に木っ端みじんに打ち砕かれてしまったパターン。

それでも、まだ前半はいい。
登場人物の設定や行動に「?」が浮かぶシーンも少なくないが、映画的には許容できる範囲である。
しかし、後半になると、もう何が何だか。
話がややこしくて「何が何だか」と思うのではなく、
作り手が、よくこれでいいと思ったものだ、という感じの何が何だか。
どんどん崩壊していき、最後までその崩壊に歯止めはかからない。
あの展開、あの脚本、あの演出で、役者さんたち、よく演じるものだ。

一応、個々の登場人物に、なにやら背景のようなものがあるようなのだが、
手が回らなかったのか、
尺の問題なのか、
単に忘れてしまったのか、
誰もが宙ぶらりん。
最も大切にしたい動機の部分も、はにゃー。

主演は佐藤浩市さんとなっているが、出番はあまり多くない。
刑事役の西島秀俊さんが奔走するが、人物描写が全くなっていないから、せっかくのカッコよさが伝わらない。
よかったのは中村倫也くんくらい。陰のある男を好演していた。
広瀬アリスさん演じる女性の行動は、終始意味不明。

クリスマス・シーズンに、スターがたくさん出ている肩が凝らない娯楽作を観たい、
という方も多いと思う。
この作品がその役割を果たすべきであったのかもしれないが、無残な結果となった。

こういう映画を観て、いつも不思議に思うのは、
完成してしまうまでに誰もなんとも言わんのかね、ということである。
辻褄は合わないし、
人物設定は無茶苦茶、
ストーリーは破綻。
映画を作る人なら、観ればすぐにわかるだろうに。
本当に不思議に思う。

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映画評 「アンダードッグ 後編」 [映画評]

前編についての映画評で、前後編公開が好きになれないと書いた。
それでも、後編が圧倒的に面白ければチャラになる。

監督は、どうしても「『百円の恋』の」という形容詞がついて回る武正晴さん。
本作のオファーを受け、「またボクシングか」と思ったという。
と言いながら、「ホテルローヤル」より、数段気合の入った作品に仕上げてきた。
ボクシング映画と手が合うのだろう。
しかし、宿命的に比較されるであろう「百円の恋」と比べると・・・。

前編・後編合わせると4時間半にも及ぶ長尺である。
なにやらややこしい状況もてんこ盛り。
それが、胸に響かない。
時間はたっぷり長いのに、足りていない。
情報は山ほどあるのに、不足している。

伏線めいたものはきちんとは回収されず、
登場人物の心境の変化も今一つすとんと落ちない。
もやもやが広がる。

最後のボクシングシーンは盛り上がるのだが、
そこへの持って行き方もしっかり描かれていない。
だから、映画の中の客席ほどは盛り上がれない。
なんでも、2021年の元旦からAbemaTVで全8話の配信版が流されるらしい。
全貌を知りたければそちらを観ろということだろうか。
前後編で作っておいて、いくらなんでもそれはない。

ボクシングシーンは、迫力はあるのだがリアリティはない。
映画なのだから、ギリギリのリアリティは必要ないが、本作においてはもう少し真に迫ってもよかったように思う。

主演は、森山未來さん。
外れのない俳優さんであり、その信頼に応えている。本作の傷は森山さんによるものではない。
森山さんと絡む若手ボクサー役に北村匠海くん。
恋愛ものに引っ張りだこだった北村くんが、とんかつではコメディ、本作ではシリアス。演技の幅を広げている。
前編で売れない芸人役を演じたのが勝地涼さん。
印象的な役を印象的に演じ、ある意味この映画での勝者となった。
後編で全く絡まないのが実に残念である。

「アンダードッグ」は、いろいろなものを盛り込み過ぎて消化不良になった感がある映画。
監督も俳優も気持ちを込めた作品だと思うが、出来上がった作品は思いの強さとは比例していないと思う。
だから前後編公開はやめた方がいいのだ、
という意を強くした。

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プカプカ  ~ 映画「佐々木、イン、マイマイン」以来耳を離れない ~ [ヨモヤ]

「プカプカ」という曲がある。
前から知っていたが、
誰の曲なのかも、
どんないわれがある曲なのかも考えたことがなかった。
雰囲気がある曲だな、くらいで。

先日観た、「佐々木、イン、マイマイン」という映画の中で、
若い女性が、一人深夜のカラオケボックスで「プカプカ」を歌っているシーンがある。
それを見た佐々木という登場人物が、どうしても我慢できなくなって、一緒に歌ってくれと頼む。
ナンパじゃないんだ、と言いながら。
歌い明かした後の夜明けのシーンと併せて、とても印象的だった。

「プカプカ」は、西岡恭蔵さんという人の歌。
1972年の曲で、私はリアルタイムでは知らない。

「プカプカ」は、
“おいらを風来坊にした イカしたあの娘”
のことを歌っている。
タバコが好きで、男が好きで、スウィングが好きで、占いが好きで。
この「あの娘」にはモデルとなった人がいて、安田南さんというジャズシンガーだそうだ。
安田さんは、数々の伝説に彩られた「アングラの女王」。
すでにお亡くなりになっているとされているが、没年月日も不明というから、最後まで謎である。
安田さんについてのウェブの記事を読むと、実に惹かれる存在である。
こういう方がおられ、
曲を捧げられ、
その曲が永遠の命を持っている。

安田さんについては、例えばこちら
http://www.tapthepop.net/song/15305
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%89%E7%94%B0%E5%8D%97

西村さんの奥さんは、KUROさんという名義で作詞家をされていたらしい。
しかし、若くしてお亡くなりになり、西村さんも後を追うように自ら命を絶たれた。

「プカプカ」は多くの人にカバーされていて、Wikiによれば、
桑田佳祐さん、原田芳雄さん、桃井かおりさん、大槻ケンヂさん、つじあやのさん、福山雅治さん、奥田民生さんなどなどなどの名前が挙がっている。

知っている人からすれば、本当に今さらだろうけれど、
今の私の頭の中でプカプカが舞っている。

演奏の様子は例えばこちら
https://www.youtube.com/watch?v=JXWJRXKUh-Y

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国から地方への疑似強制的計画策定要請の弊害 [ヨモヤ]

少し前の話になるが、全国知事会の飯泉嘉門会長と河野太郎行政改革担当相が意見交換された。
そのなかで知事会は、
環境や福祉、まちづくりなどさまざまな分野で国が自治体に行政計画の策定を求め、関連作業を増やし過ぎている、
として見直すよう要請されたという。
河野大臣は知事会からの注文に
「提案はいずれもごもっともなものばかりだ」
とおっしゃったそうだ。
ぜひともお願いしたい。

2000年に地方分権一括法が施行され、国と地方は対等・協力の関係になったはずだが、
実際にそうなっていると認識している官僚・地方公務員はどれくらいいるだろう。
公務員以外の方も含めて、
おそらく半々とかいうレベルではなく、
8対2とかいう感じでもなく、
国と地方が対等になったと感じている人はゼロではないだろうか。
意識の上で対等ではないだけならまだいいが(本当はよくないが)、
本来ならやってはいけない国からの業務の押し付けも四六時中ある。
つまり、実質的にも対等ではない。
地方分権、なにやらセピア色の言葉である。

もちろん、法的に押し付けはできないので、
全国に一律の補助金を交付し、やらなければやらないでいいけれど何言われても知りませんよ的なパターンであったり、
この計画作らなかったら起債できませんよだったり。
実質的にはまごうことなき強制である。
こんなことがそこらじゅうで行われている。
これなら国が直轄でやった方がいい、
むしろ以前の機関委任事務の方がすっきりする、
などと言いたくもなる。

そうしたなかで知事会から河野大臣に対して、計画の義務付けの見直しを要請したのは意義があることだと思う。
個々の省庁では、おそらく悪気なくやっているのだろう。
しかし、受ける自治体としてはかなわない。
大臣に伝わったのだから、今後は自重してもらえるだろうか。

国の人としては、
地方がやるべきことをちゃんとやらないから義務付けせざるを得ないのだ、
と言いたいかもしれない。
しかし、そうした全国一律の弊害が目に余ったからこその地方分権であることを忘れないでいただきたい。
本当に全国が足並みをそろえてやらなければならないのなら、
自治体を勝手に手足にしないで自ら直接やるべきであろう。

国家公務員が、以前にも増して多忙になり、それまでならできた気配り目配りもできなくなってきていると聞く。
大変だろうと思う。
しかし、執行面の配慮が十分にできない政策を地方に押し付けては、負の連鎖になるばかりである。

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映画評 「佐々木、イン、マイマイン」 [映画評]

男同士の友情を描く青春物語。
こういうのに弱い。
「ピンポン」とか「セトウツミ」とか「キッズリターン」とか。
本作は、高校時代にいたカリスマ的なアイツのことを思い出す話、と聞いていたので、
「桐島、部活やめるってよ」のような話を思い浮かべた。
しかし本作は、想像していたのとは少し違い、佐々木は面白いけれど悲しい奴でもあった。

映画の主人公は佐々木ではなく、高校の頃、佐々木とつるんでいた仲間の一人。
役者になる夢を持って上京したが、明日が見えない日々を過ごしている。
そんな主人公が、高校時代の友人とひょっこり出会い、佐々木のことを思い出す。

高校時代の佐々木は、度を越えたお調子者。
「佐々木!佐々木!」
とはやされると、教室の中でもスッポンポンの裸になって踊り狂う。
しかし、家庭環境には恵まれておらず、寂しそうな表情も見せる。

高校卒業後も、佐々木はヒーローになっていない。
人としてのありようは変わっていないが、勤め人ができるはずがないと、
パチプロで生計を立てている。
冴えないといえば、実に冴えない。

登場人物すべてがカッコよくない青春群像劇。
それだけにみんな愛おしい。

佐々木が深夜のカラオケボックスで気になる女の子と会うシーンがいい。
明け方まで歌い、店を出てなんとなく互いに別れがたく照れ臭くなっている。
夜が明け、テンションは上がっているのだが、これきりにした方がいいような気もしつつ、これきりにはしたくないような気もしつつ。
その光景は実に印象的だった。

そして鮮烈なラストシーン。
これしかないというラストだった。

主演は藤原季節さん。
「his」に続いて佳作への出演となった。
佐々木役を演じる細川岳さんが脚本も手掛ける。
これから映画界をにぎわせそうな方だ。
佐々木と絡む女の子役の河合優実さんがよかった。

「佐々木、イン、マイマイン」は、スタッフの思いのこもった力作。
じれったく、熱く、どうしようもない若者の姿をしっかりとらえている。
ただ、文句なしの快作、という感じでもない。
懸命に作られていて、しかもしっかり練られていて、
何が足らないとか、何を描き過ぎとか思わなかったが、
突き抜けるような感動とまではいかなかった。
何をどうすればよかったのか、うまく言えないけれど。
好きな映画だが、生涯忘れないかというとそこまでは。

まあ、生涯忘れないような映画は滅多になく、そんなことを思わせるだけで十分に力のある作品と言えるのだが。

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私がオーナーなら、迷うことなく新庄さんを獲得する [ヨモヤ]

近年、注目度を高めているプロ野球の12球団合同トライアウト。
今年は12月7日に行われる。
プロ野球チームを自由契約になった選手のうち、現役続行を望む選手たちが一堂に会し、
自らの実力をアピールする場。
人生をかけたラストチャンスという感じがドラマ性を醸し出している。

今年は、元日本ハムの新庄剛志さんが48歳にして挑戦するということで、一層注目を集めている。
去年の11月
「みんな、夢はあるかい? 1%の可能性があれば、必ずできる。
きょうからトレーニングを始めて、もう一回プロ野球選手になろうと思います」
と宣言された新庄さん。
果たしてどんなパフォーマンスを見せるのだろう。

普通に考えたら、無理に決まっている。
しかし、新庄さんは、かなり余力を残して引退された感がある。
また、足や肩など、身体能力はプロ野球界でも突出したものがあった。
だから今回の挑戦にも、ひょっとしたら、という期待がかかる。

もちろん、大方の見方は、
「駄目に決まっている」
というものだろう。
どんなに能力が高くても、
年齢が年齢だし、
15年間のブランクはあまりにも大きい。
戦力になるとは到底思えない、ということだと思う。

しかし、もし私がオーナーなら、絶対に獲得するように指示する。
これほどリスクの低い優良物件は滅多にない。

外国人選手の場合、年俸に見合う活躍をしてくれるかどうかが大きなリスクとなる。
日本の野球に適合しない可能性も小さくない。
トレードの場合、もといた選手より活躍してもらわないと割に合わない。

その点、新庄さんにはメリットしかない。
絶対に話題になるし、観客動員にも寄与すること間違いなしである。
そのうえ、
年俸は高くないだろうし、
誰かと交換するわけでもない。
それを言っては身も蓋もないが、ぶっちゃけ戦力にならなくても問題ない。
あり得るとすると、
「ふざけるな」
という生真面目なファンやチーム内からの反発だろうが、新庄さんのキャラクター的に、あまり深刻に考える必要はないと思う。

客寄せの選手を獲得することを嫌う方もおられるが、プロ野球はお客さんを喜ばせるためにやっているのだから、悪いこととは思えない。
チームを強化するのも、お客さんを喜ばせるための手段である。
試合に使うかどうかは現場の判断として、人気のある選手を獲得しようとするのは当然の選択だろう。

単純に、楽しそうに野球をしている新庄さんを見たいという思いもある。
同僚の選手にとっても、
新庄さんを見て、
新庄さんを見に来たお客さんにも見られて、
という環境は悪くないのではないか。

トライアウトはもう目前。
新庄さんが何回目かの奇跡を起こされることを楽しみに待とう。

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映画評 「アンダードッグ 前編」 [映画評]

ちょくちょくある前編後編公開。
正直なところ、この形式が好きではない。
映画である以上、2時間でしっかりおさめてもらいたいと思う。
前後編にするのなら、せめて前編だけでも満足できる決着を付けてほしい。
後編の前振りのような前編を見せられてはかなわない。

だったら、最初から前後編ものを観なければいい、と言われればそうなのだが、
結構魅力的な映画がこの形式をとっていたりするから困る。
「あゝ、荒野」とか「3月のライオン」とか。
ただ、ほとんどの場合、前編と後編の公開時期はずらす。
それはそうだろう。
そうでないと、
観る方は大変だ。
だって、時間は長いし、お金は倍かかる。
劇場も大変だろう。
その時間だけ、同じ映画のために確保しなければならないのだから。

この「アンダードッグ」という作品は、あまり例のない前後編同時公開。
私は、2本一気に観ることはせず、とりあえず前編だけを鑑賞。
困ったことに、前編は宙ぶらりんなまま終了。
嫌なパターンだった。

私は「ちはやふる」という映画が大好きである。
こちらは、「上の句」「下の句」が少し時期をずらして公開された。
しかし、それぞれ単独でも十分に楽しめる作品になっていた。
もっと言えば、「上の句」が一番よかったような気さえする。
本作のように、同日に公開し、前編は後編へのつなぎのようなものというのは、
ちょっとひどい。
これなら、長くてもいいから1本にすべきだったと思う。

でもまあ、きっと後編も観に行ってしまうのだろう。
2時間以上の長尺の予告編を観たようなものなのだから。
感想は、後編を観た後で。

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このところで読んだ本 [読書記録]

このところで読んだ30冊は以下のとおり。

「持続可能な地域のつくり方」 筧 裕介
「たけし金言集」 ある北郷
「ビジネスマンの父より息子への30通の手紙」 キングスレイ・ウォード
「職場のハラスメント実務対応Q&A」
「完全版 無税入門」 只野 範男
「妄想かもしれない日本の歴史」 井上 章一
「会社四季報 プロ500」
「みずほ銀行システム統合 苦闘の19年史」
「奇跡の経営」 リカルド・セムラー
「リーダーの教養書」
「日本叩きを封殺せよ」 原田 武夫
「オーパーツと天地創造の科学」 久保 有政
「あの世に聞いた、この世の仕組み」 雲 黒斎
「多数決を疑う」 坂井 豊貴
「地方議員は必要か」 NHKスペシャル取材班
「春、戻る」 瀬尾 まいこ
「2020年6月30日にまたここで会おう」 瀧本 哲史
「やってのける」 ハイディ・グラント・ハルバーソンン
「経済学のセンスを磨く」 大竹 文雄
「ベネディクト・アンダーソン グローバリゼーションを語る」
「ウンコな議論」 ハリー・G・フランクファート
「愛される街」 三浦 展
「いつも時間がないあなたに」 センディル・ムッライナタン他
「WORK DESIGN」 イリス・ボネット
「この世にたやすい仕事はない」 津村 記久子
「健康第一は間違っている」 名郷 直樹
「誰とでも仲良くなれる人の聞き方・話し方」 岩崎 一郎
「コロナ時代の僕ら」 パオロ・ジョルダーノ
「半生の記」 松本 清張
「AI × 人口減少」 中原 圭介

「2020年6月30日にまたここで会おう」の著者、瀧本哲史さんは2019年の8月に亡くなられた。本著は2012年6月30日に東京大学で行われた講義をまとめたものである。思いを引き継いでいきたい気持ちにさせられる。

大竹文雄さんの「経済学のセンスを磨く」は、世の中の常識とされることも経済学の考え方を通すと違って見えることを示している。なんでも経済学的に考えればいいというものではないが、一つの考え方として参考になる。

イタリア人作家パオロ・ジョルダーノさんの「コロナ時代の僕ら」は、コロナウイルスの感染が広がり、死者が急激に増えていった今年の2月下旬から3月下旬に書かれたもの。誰かに責任を押し付けるのではない、真摯な思考の記録。後世に伝えたい。

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映画評 「滑走路」 [映画評]

気合の入った映画である。
どんな映画も、
多くの人が関わり、それなりのお金が投じられているので、
当事者は気合を入れているのだと思うが、真剣味が伝わってこない作品も少なくない。
その点この映画からは、作り手の思いがビンビン伝わってくる。

だからもう、それだけで点数は甘くなってしまうが、
映画の全体的な構成としては凝り過ぎていてわかりにくいし、
3つの話が時系列も場所も登場人物もバラバラで展開するので、
感情移入もしにくい。
狙ってそうしているのであり、ある種謎解き的な意味合いもなくはないのだが、
それが成功しているとは思えない。
ドシンと、真ん中に力いっぱいの直球を投げ込んでもよかったのではないだろうか。

原作というかモチーフとなっているのは、いじめや非正規雇用といった自身の経験を下敷きにした短歌を発表し、32歳で命を断った歌人・萩原慎一郎さんの「歌集 滑走路」。
世界観は共通しているのかもしれないが、物語は全くの創作であろう。

並行して進む3つの話の主人公は、
・激務の中で、仕事への理想を失い、不眠に悩む厚生労働省の若手官僚
・夫との関係に違和感を覚える切り絵作家
・幼なじみを助けたためにイジメの標的となった中学2年生の学級委員長
という面々。
それぞれがしんどい日々を過ごしている。
成長したのち、誰が誰になり、誰がどうなるのか、
それがなかなかわからないという珍しい構成になっている。

3人はそれぞれの人生を歩む。
それは学生のころの経験に規定されたものか。
自分の周りの環境によるものか。
それとも自分自身が選び取ったものか。

映画のラストシーンは、希望に満ちた映像で終わる。
しかし、それは映画の登場人物たちの将来を暗示したものではない。
むしろ皮肉なものである。

映画のタイトルにもなっている「滑走路」という短歌がある。
滑走路は誰にでもあり、あとは自分で翼を手に入れるだけ、という趣旨である。
逆に言えば、目の前に滑走路が開けていても、翼を手に入れない限り飛べない。
ラストシーンで揚々と歩きだした二人だが、翼が手に入るとは限らない。

主演の水川あさみさんの今年の活躍ぶりは凄い。
「グッドバイ〜嘘からはじまる人生喜劇〜」
「喜劇 愛妻物語」
「ミッドナイトスワン」
本作ときて、
さらに「アンダードッグ」。
それぞれが実に強烈な映画でもあり、今年は水川さんの年と言っていい。
というか、言うしかない。

「滑走路」は、思いの詰まった作品だと思うし、
いろいろな見方ができる点もいい。
こういう精魂込めた映画が作られるのは嬉しい。
ただ、観る側に考えさせ過ぎている感があった。
そちらに頭が行って、映画的快感につながらなかった面がある。
難しいところだが。

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アーモンドアイ様 おみそれいたしました [ヨモヤ]

アーモンドアイのレースを初めてみたのは、2018年のシンザン記念だった。
シンザン記念は、明け3歳馬によって争われる重賞だが、1月早々ということもあり、通常牡馬の一線級は出走してこない。
ただし、ジェンティルドンナがそうだったように、牝馬がこのレースを勝つと、先がグッと開ける。
それほどの評判馬が出ていなかったので何の気なしに見ていたが、アーモンドアイの末脚にはびっくりさせられたことを覚えている。

それでも、3か月後の桜花賞では、まだ疑っていた。
前哨戦を使わなかったのが気になったし、ラッキーライラックの方に分があるように見えた。
しかし、これまた鮮やかな差し脚だった。

それでも、その次のオークスでもまだ疑っていた。
あれほど切れる末脚を使う馬に2400mが合っているとは思えなかったからだ。
しかし、ここも完勝。
この段階で、強さをは思い知った。

秋になり、秋華賞はもちろん楽勝。
それでも、ジャパンカップは簡単ではないと思った。
さすがに強さは認めていたが、シュヴァルグランやらスワーヴリチャードやらキセキやらサトノダイヤモンドやらといった歴戦の面々が立ちふさがるかと考えた。
結果、2分20秒6の世界レコードで圧勝。
やれやれ。

その後、世界に戦いの場を求めてドバイターフを優勝、
続く安田記念では致命的な不利を受けて久しぶりに敗れるも、
次の天皇賞では当然のようにぶっちぎり。

暗雲が垂れ込めたのは、2019年の有馬記念だった。
もともとは香港に遠征するはずが熱発で回避。
そのうえでのレースであり、しかもあまり向いていないように思える中山の2500。
それでも最強馬ならなんとかする、との見方に反して9着惨敗となった。

2020年の初戦は、前年に引き続きドバイで戦うはずが、コロナ禍により中止。
すでに現地に入っていただけに、疲れが心配されたが、
帰国後のヴィクトリアを圧勝。
次の安田記念には敗れたが、まあそういうこともある。
秋の天皇賞に勝利して、史上初の芝GⅠレース8冠を達成した。

それでも、引退レースとなったジャパンカップは楽ではないと思った。
中3週のローテーションも不安視されていたが、
それ以上に、やや衰えを感じていたからである。
なんといっても、
3歳のころからGⅠ級の厳しいレースばかりを走り(なんと12戦連続GⅠ)、
その都度すごいパフォーマンスを見せてきたのだから、
牝馬ということを考えても、疲れが出るはずだと思えた。
2020年に入ってからの安田記念や天皇賞のレースにやや陰りが見えた気もした。
しかも相手は、若さピチピチの無敗の三冠馬2頭。

しかし、アーモンドアイの強さは、常識をはるかに超えていた。
キセキが大逃げを打ち、底力が問われる厳しい展開を、
真っ向から勝ちに行って、後続を完封。
引退レースにして、過去最高級の強いレースにさえ見えた。

馬券的に、本命のあらを探したいタイプの私にとって、アーモンドアイは天敵だった。
だが、最後の最後まで主役を張り続け、私はやられ続けた。
とんでもない馬だった。
ほとほと。

今さらながら、アーモンドアイとそのスタッフの皆さんにお伝えしたい。
おみそれしました。

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